ハードＳＦが好き

「星を眺めたり撮ったりするのが好き」
そんな趣味を口にすると、そこに関心の薄い人からは理系人間とみられるらしい。
もちろんこういう趣味人に理系の人が多いのかも知れないが、例外も少なくないだろうと思う。

個人的には理数系が得意かといえば全くその逆で、苦手も大の苦手なのだが、どういうわけかＳＦ、それも宇宙物のハードＳＦという分野が大好きな文系の人間。

確かな理論で補強されたうえでの荒唐無稽な大風呂敷に、たまらない魅力を感じるのだが、近頃そういう物語に出会う事がめったにない。
全く違う物理法則で成り立つスペースオペラや壮大なファンタジーも好きだが、どこか物足りなさを覚えてしまう。

「読みたくなる小説が無いから自分で書くことにした」
むかし、そんな理由で小説家になったという著名な作家氏が居たそうだが、凡人にそんな芸当は逆立ちしたって無理な話。
で、物語を紡ぐことは無理にしても、思考あそびぐらいはできるかもしれないとやってみた。

そう遠くない未来、人類は太陽系内の居住可能な惑星や衛星に進出、テラフォーミングで定住を果たしたが、その先の恒星の世界にはまだたどり着けていないと仮定しよう。
最大の壁はその桁違いの距離。
例えば太陽系最遠方の惑星、海王星まで合の時の地球からの平均距離は約43億5000万kmで、光速度では約4時間ちょっと。
もし、人間に負担の少ない1Gの重力加速度で航行できる宇宙船が開発されているとすれば、行程の半分まで1Gで加速し残る半分を1Gで減速して約400時間弱で地球-海王星間の旅ができることになる。往復でも1ケ月ちょっとの旅だ。世界一周のクルーズ船の旅に比べれば短いぐらいだろう。

それに引替え最も近い恒星と言われているケンタウルス座のα星アルファ・ケンタウリでさえ4.3光年先、言い替えれば「よーいどん」の光の速度で4年と4ヶ月弱もかかる所にある。
果たして人類に恒星間旅行は可能なのかという命題だ。
スペースオペラではいとも簡単に光速度を超える宇宙船が登場していたが、物理的に光速度を越えられない縛りのあるハードＳＦでは、何百年の歳月を世代交代で乗り越えるものや、冷凍冬眠という手段で解決するものもあった。
近年は一応物理法則に敬意を払いつつ、一旦異空間（異次元）に入り中間の距離をジャンプするという「スペース・ワープ航法」や、ブラックホール-ホワイトホールを使い空間のねじれを利用するという手法も編み出されているが、これも私の感覚からすればスペースオペラの部類である。

では、本当に恒星間旅行は夢のまた夢なのだろうか。
前述の1Gの重力加速度を使った場合、光速度に限りなく近づけるにはどれぐらい時間がかかるものなのか、それをExcelでシミュレーションしてみた。
もちろん限りなく加速を続けるための燃料をどう調達する、という現実的な話は脇に置いておくとして。
因みに、1Gで音速を超えるのにかかる時間は35秒。
地球の公転速度を超えるのは約26分後。
太陽系が天の川銀河を公転する速度240km/秒を超えるのは約7時間後と分かった。
では本題の光速度に限りなく近づけるのは・・・約8400時間後に光速度の99％に達するようだ。
8400時間といえば約350日に相当する。
さらに350日間の加速の間に、なんと4兆4800億km余りを進んでいることになる。
1光年分の約47％をすでに航行していることになるのだ。

アルファ・ケンタウリまで4.3光年。
加速と減速に2年弱を擁して1光年弱の距離を航行し、光速度の99％で約3.5年を慣性航行すれば良いことになる。
つまり6年もあれば到達可能となれば、恒星間航行もぐんと現実味を帯びてくるのではないかと。
ついでに燃料の件だが、核燃料リサイクル技術が確立すれば、少ない核燃料でほとんど無限に航行できるかもしれない。

とはいえ、それはごく近所の恒星間の話で、30光年あたりまでがせいぜいだろう。
半径30光年の範囲にテラフォーミング可能な惑星系がどれぐらい存在するかわからないが、宇宙が舞台の物語にしては狭すぎる。
で、ここからがＳＦのＦの範疇。
違和感なく大風呂敷を広げて銀河系狭し、いや大宇宙狭しと繰り広げられる物語を誰か書いてくれないかなあ。